呼吸器内科
わが国は、高齢化率が29%を超え、人類未曾有の超高齢社会を突き進んでいます。肺は直接外界と通じており、常に外界の刺激にさらされ加齢による影響を受けやすい臓器の代表です。
現在、国民の死因の約20%を呼吸器疾患が占めており、今後 呼吸器疾患はますます増加し、その重要性が認識されています。
診療科長あいさつ

大類 孝Dr. Takashi Ohrui
当病院はもともと地域の基幹病院として歩みを進め、現在は医学部・薬学部の附属病院として、診療のみならず医療人を育てる教育病院としての役割を担っています。また、学会活動や論文報告を通じて新しい情報を発信する使命も負っています。
呼吸器内科として扱う疾患は、肺炎、肺がん、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎などのcommon diseaseが中心です。
近年、それぞれの疾患において分子生物学的な病態解明、診断法、治療法ならびに予防法に大きな進歩が認められました。当科ではそれらを積極的に活用して診療にあたっております。
診療方針と特徴
肺炎は誤嚥性肺炎も含めますと、平成29(2017)年以降も疾患別死亡の第3位を占めており、とても重要な疾患です。発症は圧倒的に高齢者に多く、高齢者肺炎の7~8割は誤嚥性肺炎であるといわれています。超高齢社会において、今後ますます増加が懸念される医療介護関連肺炎もその大部分が誤嚥性肺炎であるといわれており、抗菌薬治療のみならず入院後早期からの嚥下機能の評価、低下した嚥下機能のACE阻害薬、シロスタゾールならびにドーパミン作動薬を用いた薬物療法の介入、嚥下リハビリの導入などによる集学的治療により速やかな回復、社会復帰を目指しています。
肺がんは、近年、喫煙者数の減少傾向にもかかわらず、その死亡数・罹患者数はますます増加し、がんによる死因の上位を占めています。近年、肺がんの分野では、ドライバーがん遺伝子変異検索に基づいた分子標的療法や、免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法により、治療成績が飛躍的に向上してきました。当科でも、気管支内視鏡により採取したがん組織や胸水細胞などから、ドライバーがん遺伝子検査や免疫療法に関するバイオマーカー検査などを迅速に行い、がんの個別化医療を積極的に推し進めています。
気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの代表的な閉塞性肺疾患は、現在、死亡率の動向に目立った相違が確認されています。すなわち気管支喘息の死亡率は吸入ステロイド薬の普及とともに着実に減少してきましたが、喫煙による生活習慣病の最たるものであるCOPDの死亡率は増加しています。COPDでは診断の遅れが死亡率の増加につながっており、スパイロメトリーを施行しての早期診断ならびにその後の早期治療介入がとても重要です。その治療法の基本は禁煙指導とともに行われる吸入療法で、抗コリン薬、長時間作用性β2刺激薬が用いられます。気管支喘息合併であれば前述の吸入ステロイド薬も併用します。近年、いくつかの成分を組み合わせて一度で吸えるようにした合剤が開発され、服薬遵守の向上につながっています。他に、現在、難治性気管支喘息の治療では、病態の中心にあるIgE、サイトカインおよび好酸球をターゲットにした抗体製剤を用いての治療が可能になっています。
間質性肺炎は、これまで主に病理組織に基づく診断がなされてきましたが、近年、CTスキャンを活用した画像診断が重視され、早期診断が行えるようになりました。治療薬にも進歩がみられ、間質性肺炎の中で最も発症頻度が高く予後不良な特発性肺線維症に対する抗線維化薬としてピルフェニドンとニンテダニブが開発され、年余にわたる呼吸機能の低下軽減効果が確認されています。特発性肺線維症の死因の多くを占める急性増悪に対する抑制効果も期待されています。
以上のような疾患の治療では継続がとても大切です。そのためには、当院での加療のみならず、近隣のご開業先生方との病診連携およびサテライト病院も含めた関連病院との病病連携が欠かせません。また、院内においては、これら疾患の患者さんの治療において、医師のみならず看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士の密な多職種連携によるチーム医療が欠かせません。当科ではこれらパラメディカルスタッフとの連携を重視して個々の患者さんの病態やニーズにきめ細かく対応した医療を提供すべく努力しております。

主な対象疾患
上述のように、地域医療に基づきあらゆる呼吸器疾患を対象としております。
外来診療と入院診療の対象疾患群にはかなり差がありますが、実際に病棟で入院診療している主な呼吸器疾患を以下に示します。
- 肺癌をはじめとする胸部腫瘍(呼吸器外科、放射線科と共同での集学的治療が可能)
- 呼吸器感染症(肺炎、肺非結核性抗酸菌症、肺真菌症など、感染症内科との共同診療)
- 様々な急性・慢性呼吸不全を来たしうる疾患
- 慢性閉塞性肺疾患(慢性肺気腫、慢性気管支炎)
- びまん性肺疾患(間質性肺疾患、肉芽腫症、薬剤性肺障害、放射線肺障害、急性呼吸促迫症候群[ARDS]など)
- 気管支喘息
- びまん性汎細気管支炎
診療科の実績
令和4(2022)年
入院患者延べ人数 月平均448.1人(14.7人/日)
うちDPC主病変疾患の入院患者延べ人数
- 肺炎※1
月平均116.4人(3.8人/日) - 肺の悪性腫瘍
月平均156.6人(5.1人/日) - 間質性肺炎※2
月平均101.3人(3.3人/日) - 慢性閉塞性肺疾患※2
月平均13.0人(0.4人/日) - 喘息※2
月平均3.9人(0.1人/日)
※1 肺炎及び誤嚥性肺炎を含む。
※2 急性増悪の有無は考慮せず。
難病認定患者数
- 特発性間質性肺炎※3 年10人
- サルコイドーシス※3 年20人
- 呼吸機能障害者※4 年72人
※3 令和4(2022)年1月1日~令和4(2022)年12月31日に当院指定難病が新規保険登録された患者数(全診療科)。
※4 在宅酸素療法指導管理料算定患者数。
気管支鏡検査実施件数
- 49件(全科あわせて129件)
教育内容と特徴
医学部教室名称
内科学第一(呼吸器内科)
研究テーマ
- 高齢者肺炎の発症機序および予防法の解明
- 呼吸器悪性腫瘍の病態解明と個別化治療の開発:免疫学、病理学、医化学教室等との共同研究を基に、免疫チェックポイント阻害薬などの治療介入により腫瘍免疫がどのように変化するかをヒト検体を用いて経時的に観察し、これらの治療の効果・毒性を予測する新規バイオマーカーの探索的研究を行っている。また、大阪市立大学医学部附属病院などと連携して、進行期肺がん患者に対する新規治療に関する臨床研究を行っている。
- 難治性気管支喘息・びまん性汎細気管支炎(DPB)等の気道の線維化病態に対する治療法の開発:アレルギー認定施設として、アレルギーが関与する呼吸器疾患の病態解明ならびに治療法の確立を目指す。
教育方針
地域医療に基づくあらゆる呼吸器疾患に対処できる呼吸器内科医としての教育をします。社会的な人格形成はもちろんのこと、基本に忠実に診断をつけるための検査手技から治療指針をたててその効果を判定するまでの呼吸器内科医としての臨床力を育みます。また、初期の段階から、根本の病態を理解するために、トップジャーナルと呼ばれる英文学術専門誌に共に親しむ機会を持ちます。新しい視点から、各種学会で発表できる能力は、日々の臨床で深く考える力も育むことを前提として教育いたします。
取得可能な資格
日本内科学会 内科専門医・内科指導医に加えた呼吸器内科関連の資格を以下に示します。
- 日本呼吸器学会 呼吸器専門医・呼吸器指導医
- 日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医・気管支鏡指導医
- 日本結核・非結核性抗酸菌症学会 結核・抗酸菌症認定医・結核・抗酸菌症指導医
- 日本アレルギー学会 アレルギー専門医・指導医 等
志をともにする医師を募集
地域医療の一環としてあらゆる呼吸器疾患に対処することを前提としていますが、新設医学部の大学病院として教室がより一層充実していく必要があります。呼吸器専門医を目指す若手臨床医や研修医はもちろん、呼吸器の専門知識をすでに習得して新たな診療体制の構築や医療教育を希望される先生方のご連絡をお待ち申し上げます。何卒よろしくお願い申し上げます。
病院代表窓口(総務グループ)
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