お知らせ
検査部 長岡裕李 臨床検査技師の論文が 「PLoS ONE」に掲載されました
当院検査部の研究論文が、Public Library of Science社が刊行する国際誌『PLoS ONE』に掲載されました。
論文タイトル・著者・掲載誌
論文タイトル:Combination of triciribine and p38 MAPK inhibitor PD169316 enhances the differentiation effect on myeloid leukemia cells(Triciribineとp38 MAPキナーゼ阻害剤PD169316の併用が骨髄系白血病細胞の分化誘導効果を促進する)
著者:Yuri Sato-Nagaoka, Susumu Suzuki, Souma Suzuki and Shinichiro Takahashi
掲載誌:PLoS ONE 19(12): e0312406 (2024)
DOI:10.1371/journal.pone.0312406
研究内容
急性骨髄性白血病(AML)のサブタイプである、急性前骨髄球性白血病(APL)に対する全トランス型レチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法は確立されています。しかし、APLにしか著効しないことや、ATRAによる耐性出現が問題点です。そこで、より適応の広い有効な分化誘導療法の開発が待たれています。
我々は最近、がんにおいて主要な経路であるAkt経路のキナーゼ阻害活性を有するTriciribineが、本来Akt経路が抑制するERK/MAPキナーゼ経路を活性化することで、白血病細胞に対する強力な分化誘導作用を有することを見出しました(1)。
本研究では、様々なキナーゼ阻害剤の組み合わせを検討することで、より効果の高い分化誘導療法の可能性を探索しました。その結果、副次的にERK/MAPキナーゼ経路を活性化することが知られているキナーゼ阻害剤、PD169316、SB203580、SB202190などのp38 MAPキナーゼ阻害剤とTriciribineとの組み合わせが、効率的にERK/MAPキナーゼを活性化し、NB4細胞(APL細胞株)やHL-60(AML細胞株)におけるCD11bを始めとした骨髄球系分化マーカーの発現を上昇させ、形態学的にも強い分化誘導を引き起こすことを発見しました。マイクロアレイを用いた遺伝子発現プロフィール解析を行った結果、これら2剤の併用が、ケモカイン(CCL1 etc.)およびサイトカイン関連遺伝子(CSF1, IL-10, IL-1b etc.)を上昇させることが明らかになりました。これは、CD34陽性骨髄系前駆細胞がERK/MAPキナーゼ活性化により分化する際に認められる特徴(2)と一致していることがわかりました。
本発見により、Triciribineとp38 MAP キナーゼ阻害剤の併用療法が新たな効果的な分化誘導療法として発展できる可能性が示されました。
文献
- Suzuki et al., Identification of triciribine as a novel myeloid cell differentiation inducer, PLoS One. 2024 May 14;19(5):e0303428
- Geest et al., Tight control of MEK-ERK activation is essential in regulating proliferation, survival, and cytokine production of CD34+-derived neutrophil progenitors, Blood. 2009 Oct 15;114(16):3402-12.
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