内視鏡下手術とは
産婦人科部長 渡辺 正
婦人科領域の代表的な内視鏡下手術には腹腔鏡下手術と子宮鏡下手術があります。どちらの手術も目的とする臓器に直接触れずに特有の器具を使用してビデオテレビ画面を見ながら行う手術です。通常、腹腔鏡下手術はお腹に3-4カ所の小さな切開をおいて行います。子宮鏡下手術はお腹に傷をつけることなく腟の方から子宮の中に器具を入れて行う手術です。いずれも開腹手術に比較して傷は小さく(あるいはない)、いくつもの利点があります。
当院での取り組み
私は10年前まで他の施設で腹腔鏡下手術2000件以上、子宮鏡下手術約400件に立ち会ってまいりました。また、当院に赴任してからの過去10年強の実績では、腹腔鏡下手術は3000件、子宮鏡下手術は1150件を数えております。今後もこれまでの経験を活かし、内視鏡下手術を中心に婦人科良性疾患の手術に特に力をいれていきたいと考えております。
当院には仙台市内のほか、仙台市以外からも多数の患者さんをご紹介いただいております。現時点では1ヶ月当りの手術件数は30件強であるため、対象となる疾患・術式によっては2-5ヶ月の手術待ち時間をいただく場合もございますが、極力、手術までの待ち時間を少なくするように努力してまいります。
手術実績
2019年(1月から12月まで)の当院の手術症例は371例ですが、その内訳は腹腔鏡下手術277例、子宮鏡下手術129例(腹腔鏡下手術との重複例34例を含みます)、開腹手術5例でした。過去10年間の実績では毎年手術全体の90%以上を内視鏡下手術が占めていることが最大の特色です(図1)。
その中でも子宮鏡下手術は年間100件以上で東北地方では最多であると思います。また子宮筋腫に対する腹腔鏡下筋腫核出術、子宮鏡下筋腫核出術の件数は東北地方で有数であると自負しております。
腹腔鏡下手術の対象疾患(図2)と術式別の症例数(図3)をお示しします。また、子宮鏡下手術の術式別の症例数(図4)をお示しします。
腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術を受けられる方へお渡ししている パンフレットがございますので、是非ご覧になってください。
図1:手術件数の年次推移

腹腔鏡下手術と子宮鏡下手術の重複例があります。
図2:腹腔鏡下手術症例数と対象疾患の内訳(重複無し)

ここ数年は、子宮筋腫、あるいは子宮腺筋症症例の割合が高くなっています。
図3:腹腔鏡下手術術式と症例数(重複有り)
2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | |
---|---|---|---|---|---|
①卵巣(腫瘍)摘出手術 | 139 | 134 | 143 | 103 | 125 |
②癒着剥離術 | 96 | 117 | 123 | 116 | 118 |
③子宮内膜症手術 | 109 | 82 | 99 | 87 | 97 |
④腹腔鏡下(腟式)子宮全摘術 | 84 | 97 | 75 | 90 | 78 |
⑤腹腔鏡下筋腫核出術 | 105 | 121 | 103 | 92 | 90 |
⑥異所性妊娠手術 | 15 | 11 | 8 | 6 | 5 |
⑦ダグラス窩癒着剥離 | 8 | 11 | 13 | 12 | 4 |
⑧その他 | 5 | 16 | 9 | 9 | 10 |
総数 | 319 | 348 | 308 | 281 | 277 |
その他の項目には:卵巣多孔術、卵管開口術、卵管采形成術、卵管鏡下卵管形成術などを含んでいます
実際に行った手術術式を示しておりますので、1人の患者さんでも、たとえば子宮筋腫と卵巣腫瘍の合併例では①と④、子宮内膜症などでチョコレート嚢胞、腹膜病変、癒着などを有していると①②③(⑦)のようには複数の手術が行われるので、全体の合計は患者さんの総数を上回る形となります。
図4:子宮鏡下手術術式と症例数(重複有り)
2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | |
---|---|---|---|---|---|
①筋腫摘出手術 | 70 | 67 | 61 | 57 | 48 |
②内膜ポリープ切除術 | 75 | 59 | 56 | 63 | 72 |
③子宮中隔切除(切開)手術 | 0 | 2 | 2 | 1 | 1 |
④内腔癒着剥離手術 | 0 | 0 | 0 | 4 | 2 |
⑤胎盤ポリープ切除術 | 0 | 0 | 5 | 4 | 2 |
⑥内膜焼灼術(MEA) | 5 | 5 | 10 | 7 | 6 |
総数 | 145 | 128 | 131 | 135 | 129 |
子宮鏡下手術で頻度が高いのは、子宮筋腫と子宮内膜ポリープです。③④は不妊症の原因となる疾患に対して行われる手術です。⑥MEAは過多月経に対する子宮を温存する治療ですが、本治療を希望する患者さんも増えてきています。ただし、⑥MEAが適応となるかどうか、メリット・デメリットについてもよく説明して検討したいと考えております。

