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透析導入患者を減らすための取り組み

若林病院腎臓内科科長 安藤重輝

若林病院腎臓内科は透析導入患者減少を目標に掲げます。
透析患者数は全国で32万人に上ります。透析療法は患者様のQOLを低下させるのみならず医療費高騰、労働力の損出など社会的にも大きな問題となりえます。我々腎臓内科医が透析予防のためにいかに取り組むべきかを20年の腎臓内科医としての経験をもとに基本に立ち返って熟慮してみたいと思います。
透析予防が立ち遅れている主たる要因は以下の3点かと思います。

① 腎不全は透析直前にならないと自覚症状が出現しない
② 一度低下した腎機能は戻らない。
③ 腎保護のためには患者様自身の自覚・努力が必要である。

それを念頭に対策を検証します。

腎臓内科へはいつ紹介するべきか?

Cr2を超えたら?浮腫などの症状が出たら?透析が近くなったら?
以上のようにお考えになる先生方もいらっしゃるかもしれませんし、マンパワーの問題を言い訳にしてそれで良しとしていた腎臓内科医が数多くいました。かつては自分もその一人でした。これでは透析患者数の減少には繋がりません。
自覚症状が出るのはかなり腎機能が低下してから。そして腎機能は一度低下したら基本的には戻りません。裏を返せば腎不全特有の症状が出てから加療を開始したのでは透析行きのレールから降りることはできません。腎疾患の最大の特徴でもあり紹介への高い壁ともなるものとして・・症状のない元気な患者様を腎臓内科へ紹介する必要があるということです。紹介元としては【この程度の患者を紹介したら申しわけない】と思われるかもしれませんし、元気な患者様を総合病院へ行くように説得する、これも労力を要することかもしれません。しかし、透析を回避するにはいかに早い段階で患者様に腎臓という臓器に関心をもってもらうか。これが透析導入患者を減らす最大のポイントとしてとらえております。

腎機能は一度低下すると基本的には回復しない

当院腎臓内科にも患者様を多数ご紹介いただいておりますが、すでに高度腎機能低下を来してしまっており、医療介入で多少の遅延はできても遅かれ早かれ透析は避けられないという症例が数多くみられます。宮城県は残念ながら腎臓内科の分野ではかかりつけ医との連携がうまくとれておらず透析予防の面では不十分とは言わざるをえない現状です。
2018年日本腎臓学会は「かかりつけ医から腎臓内科への紹介基準」を作成しました。(表1)
概要としては以下のようになります。

①尿蛋白・潜血ダブル陽性
②40歳以下であればeGFRR<60
③年齢によらずeGFR<60 尿蛋白陽性
④年齢によらずeGFRR<45

これを鑑みるとかなりの症例数において腎臓内科の受診が必要と考えられます。
学会側でも透析導入患者減少に向けて真摯に取り組もうとする姿勢を前面に押し出してきたといえます。我々腎臓内科医は急性期疾患への対応のみならず地道な予防医学へも注視していくことが求められています。上記の基準に照らし合わせて腎臓内科への紹介となるとかなりの患者数に上るかと思われます。無症状である患者様を腎臓内科へ紹介するというのはかかりつけ医の先生方からみてもかなりハードルが高いかと思われます。しかし、透析導入撲滅のためにはこの紹介ハードルを下げて初期の段階からCKD患者を数多く紹介いただき、腎臓内科的医療介入を行うのが最大のポイントと認識しております。

表1
原疾患 蛋白尿区分 A1 A2 A3
糖尿病 尿アルプミン走量
(mg/日)
尿アルプミン/Cr比
(mg/gCr)
正常 微量アルプミン尿 顕性アルプミン尿
30未満 30~299 300以上
高血圧
賢炎
多発性嚢胞腎
その他
尿蛋白定量
(g/日)
尿蛋白/Cr比
(g/gCr)
正常
(-)
軽度尿蛋白
(±)
高度尿蛋白
(+)
0.15未満 0.15~0.49 0.50以上
GFR区分
(mL/分/
1.73m²)
G1 正常または
高値
≥90   尿蛋白のみならば生活指導・診療継続 紹介
G2 正常または
軽度低下
60~89   血尿+なら紹介、
尿蛋白のみならば生活指導・診療継続
紹介
G3a 軽度~
中等度低下
45~59 40度未満は紹介、
40度以上は生活指導・診療継続
紹介 紹介
G3b 中等度~
高度低下
30~44 紹介 紹介 紹介
G4 高度低下15~29 紹介 紹介 紹介
G5 末期腎不全<15 紹介 紹介 紹介

上記以外に、3か月以内に30%以上の腎機能の悪化を認める場合は速やかに紹介。
上記基準ならびに地域の状況等を考慮し、かかりつけ医が紹介を判断し、かかりつけ医と専門医・専門医機関で逆紹介や併診等の受信形態を検討する。

腎臓専門医・専門医療機関への紹介目的(原疾患を問わない)
  • 血尿、蛋白尿。腎機能低下の原因精査
  • 進展抑制目的の治療強化(治療抵抗性の蛋白尿(顕性アルプミン尿)、腎機能低下、高血圧に対する治療の見直し、二次性高血圧の鑑別など。)
  • 保存期腎不全の管理、腎代替療法の導入
原疾患に糖尿病がある場合
  • 腎臓内科医・専門医療機関の紹介基準に当てはまる場合で、原疾患に糖尿病がある場合にはさらに糖尿病専門医・専門医療機関への紹介を考慮する。
  • それ以外でも以下の場合には糖尿病専門医・専門医療機関への紹介を考慮する。
    ①糖尿病治療方針の決定に専門的知識(3ヵ月以上の治療でもHbA1cの目標値に達しない、薬剤選択、食事運動療法指導など)を要する場合
    ②糖尿病合併症(網膜症、神経障害、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患など)発症のハイリスク者(血糖・血圧・脂質・体重等の難治療例)である場合
    ③上記糖尿病合併症を発症している場合

なお、詳細は「糖尿病治療ガイド」を参照のこと。

初期のCKD患者への対応

この段階では直接的な投薬などによる加療よりも患者様自身に【腎臓が悪い】という認識をもっていただくことに意味があります。EGFR20~30の腎不全患者を初診で紹介いただくこともありますが、その程度まで腎不全が進行した症例でも初診時に【腎臓が悪い】という認識を持っていない方が数多くいるという現実があります。まずは初期の段階で慢性腎臓病(CKD)に罹患している事実を受け止めていただくこと、そしてそれに対しどのように取り組んでいくかを導くのが我々専門医の役割と考えます。この時期に医療介入ができれば一生涯、透析を避けることが可能です。そしてCKD対策自体が血管合併症のリスク低下にもつながります。CKDの病態、リスクについてひとりひとりの患者様に丁寧に説明し、理解いただくように診療したいと考えます。これが出発点で最高の治療です。
そして食事指導の施行、CKDのリスク因子の排除(降圧、脂質コントロール、禁煙、尿酸管理など)もあわせて行います。状態が安定したらかかりつけ医に逆紹介とさせていただきます。通常2~3回程度の当院外来通院となりますが、このひと手間が透析予防の肝と考えております。患者様の希望があればデータチェックと加療内容の確認も兼ねて年に数回、当院に受診いただくことも可能です。それが患者様、かかりつけ医様の安心にも繋がると思います。
中にはスクリーニング検査により腎炎、血管炎など特殊病態が隠れているケースもあります。腎生検にて確定診断、そしてしかるべき治療が必要となる症例の組み上げにもつながります。
繰り返しになりますが、早いステージでの医療介入が透析予防の最大の鍵、外来がパンク状態になるのは覚悟の上、対処したいと考えます。撲滅宣言と宣う以上は、自分自身ある程度の犠牲は払うべきと考えておりますのでどんな些細な軽い症例であってもご紹介いただければ幸いです。

保存期腎不全、透析導入までの対応

かつては【Cr>5にて透析療法が勘案される時期に再度、ご紹介ください】というフレーズを紹介状の最後に記載し、かかりつけ医に末期腎不全まで丸投げしてしまうという愚行を行っておりましたが、これは極めて危険な診療です。透析の手前の時期、このステージは透析導入後以上に血管合併症の起こしやすい時期で心疾患、脳疾患の発症により健康寿命が損なわれてしまった患者様が多くいらっしゃるという現実を受け止める必要があります。Grade3~4の時期は降圧管理、浮腫管理が困難で投薬調整も難儀を極めます。また腎性貧血も顕著になり、ESA製剤が必要になります。最近提唱されているCKD-MBD(Ca P管理)への医療介入も必須です。仮に進行した腎不全であっても適切な医療介入・生活療法で透析導入までの時期を大幅に遅延することも可能です。
そしてスムーズに腎代替療法へ移行する必要があります。医師が透析という用語を口に出すのは簡単ですが、患者様の受容はそう簡単なものではありません。時間をかけて透析療法について理解いただく必要があります。本人の生活リズム、家族間の問題、介護etc・・透析は今までの生活スタイルを一変しうる治療です。本人・家族に透析導入という現実を受容いただくこと、腎臓内科医と患者が信頼関係を構築するのにもかなりの時間を要します。そして透析療法にも①血液透析②腹膜透析③腎移植という選択肢があります。患者様がどの治療を選択するかを決定するための時間も必要です。
もう1つ重要なのが計画的透析導入です。血液透析であれば内シャントをあらかじめ作成しておく必要があります。計画的導入と対峙するのが緊急透析になりますが、前者と比較し生命予後が悪いという論文も数多く報告され、また自分の経験上でも全身状態の急激な悪化、カテーテルトラブル、入院期間の長期化による体力低下など問題は多岐にわたります。透析導入患者の高齢化を考慮すれば尚更、計画的導入を行うべきと考えます。
以上からステージ3~4の時期は腎臓内科でのフォローが望ましいと考えております。

最後に

当院腎臓内科は急性期対応のみならず、患者様の幸せな将来のために透析導入回避、さらには血管合併症予防による健康寿命の延長という予防医学にも地道に取り組みたいと思います。開業医様におかれましては「こんな軽い患者様を紹介していいのか?」と思われることもあるかと思います。大学病院といえども当院腎臓内科には高い壁は一切ありません。腎臓に携わり20年強、いろいろな地域の基幹病院に勤務して参りましたが、腎臓内科は急性期の対応のみならず、予防医学の旗頭であるべきと実感しております。当たり前のことを当たり前に行う医療、これは地味な領域ですが、この地道な取り組みがCKD患者様の未来を救うと考えます。是非ともお気軽にご紹介いただければ幸いです。
このたび当院腎臓内科へCKD患者様を簡便に紹介いただくために紹介テンプレートを作成いたしました。ダウンロードいただき、ご使用いただければ幸いです。

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